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英米法へのいざない

  • 執筆者の写真: 英米法研究会 企画・広報担当
    英米法研究会 企画・広報担当
  • 2023年6月24日
  • 読了時間: 7分

更新日:2024年12月22日

こんにちは。中央大学英米法研究会 企画・広報担当です。本記事はブログページ投稿2本目ということで、はじめて英米法に触れるみなさんのために当会が研究対象としている英米法についてのお話をしていこうと思います。
当会の名称の一部にもなっている「英米法」って、なんなのでしょう?私たちが常日頃から政治・経済関連のニュースやWebメディアで当たり前のように目にし、耳にする日本の法律とはどういったところが違うのでしょうか?

辞書にあるような意味をそのまま記すと、「イギリスでおこり、形成・適用され、やがて歴史・文化・民族の連続性からアメリカ大陸方面へとわたり、そこでも用いられている法律」というようになります。しかしこれはあくまでも辞書的な意味であって、制度等の具体的な面でどう違うのかについての言及がありません。

英米法が日本法と決定的に違う点、それは、「徹底された判例法主義」「陪審制の存在」そして「法曹一元制」といったところ。ひとつひとつ紐解いていきましょう。

まず、「徹底された判例法主義」という点。これを解説する前に、まずは「法源」という概念、そしてそれに付随する考え方について説明しなければなりません。
そもそもの話ではありますが、「法」というものが人々を拘束するにあたっては「法源」、すなわち(ある国や地域、集団において実効性をもっている)社会のルールの由来する「源」がなければなりません。これを法律用語では「法源」と言います。では、その法源をどこに求めていくか。ここで、「成文法主義」と「判例法主義」という2つの考え方が出てきます。前者は「制定法主義」とも呼ばれ、そのものズバリ「成文法」 つまり、議会で議員が制定する明文化された法律を主な社会のルールの由来とする考え方を言います。日本における法令はこの考え方を採用しています。一方、後者は過去の裁判で裁判所が示した法律的判断(判決、これは不文法の一種でもある)の積み重ねを社会のルールの主な由来とする考え方で、英米法はこの考え方を採用しているのです(もちろん、判例法主義下でも議会で制定された法律も法源たり得ます)。
これを踏まえて、英米法で「判例法主義が徹底されている」とはどういうことなのでしょうか。有り体に述べるとすれば、「判例法がすべての下地となる」ということです。具体的には、議会で法律を制定するにあたっても、制定法にないような事案を解決するにあたっても、すべての基準が判例法(コモン・ロー)になる、ということを言います。また、裁判において過去に似たような事案に対する判例が示されている場合は、原則としてその判決と同じ判断を下すことにもなっています。

そして、「陪審制の存在」。
陪審制とは、個々の裁判において無作為に選ばれた何人かの市民が裁判中に提示された原告・被告双方の証言、代理人(検察官ないしは弁護士)による弁論、物証、証言等々から有罪か無罪か(民事訴訟の場合は原告の請求を認めるか否か)を判断する制度のことです。なお、刑事陪審裁判において有罪と認められた場合の量刑判断は裁判官が行います。この陪審制は日本でも1928年〜1943年に採用されていましたが、日本の場合は大陸法系の法制におけるものであったためこれについては深くは触れません。
一方、この陪審制と対をなすのが「参審制」という制度。これは個々の裁判ではなく、一定のスパンで団体による推薦等を経て選ばれた市民が一定期間「参審員」に任命され、その任期中に行われるすべての裁判において犯罪事実の認定や量刑を判断する制度です。
現在の日本の裁判には「裁判員制度」が導入されています。これはいわば、陪審制と参審制の両方の「いいとこ取り」をしたような制度。選出された裁判員が有罪か無罪かのみならず具体的な量刑の決定にも関与し、これらの決定(「評決」といいます)を裁判員と裁判官が一緒になって行う、という特徴は参審制に、事件ごとに無作為に市民を選出して裁判に関与させる、という特徴は陪審制に当てはまるものとなっています。決定的に違う点といえば、対象が重大な刑事事件の第一審に限定されているというところ。民事裁判や刑事裁判の控訴審には裁判員は参加しません。
アメリカの法廷
アメリカの法廷
最後に、「法曹一元制」。
日本においては司法試験に受かったあと1年間にわたって行われる「司法修習」を経て、弁護士、検事、判事、研究者等自分の希望する進路を選ぶことができますが、英米法においてはそれができません。英米法下では司法試験に合格すると必ず弁護士となります(司法修習のような制度が存在しない分受験までのハードルが高い)。検事や裁判官になるためには在野(民間)の弁護士として一定の実務経験を積み、国や自治体(州、郡など)から裁判官あるいは検事としての任命を受けなければならない、ということになっています。市民社会で活躍する法律家としての経験を活かした司法運営によって国民の司法に対する信頼を維持するという目的があります。


英米法を知る意義

 ということで、ここまで日本法と英米法との違いをいくつかお話してきましたが......はたからみると、英米法の世界に飛び込むというのは最初から英米法に興味をもっている人間でもない限り難しいようにも思えます。私たちとは縁遠く思えるこの「英米法」を知る意義は一体なんなのでしょうか?

それは、「現代の日本の法を知ること」「日本の法制度とは大きく違う法制度から、歴史や背景を学ぶこと」にあると(少なくとも筆者は)考えています。
まず、「現代の日本の法を知ること」から。
日本で初めての憲法「大日本帝国憲法」は現在のドイツの一部にあたるプロイセンの憲法を参考につくられたとされています。しかし、第二次世界大戦で日本が敗戦し、アメリカによる占領統治が始まるとこの大日本帝国憲法は改正を強いられることに。最終的にはアメリカ(GHQ)側が出した新憲法草案が帝国議会にて可決され、それが現在の「日本国憲法」となりました。この辺りは中学や高校の日本史、高校の公共(旧称:現代社会)、政治・経済分野で一度は触れたかと思われます。ここで重要なのは、「アメリカ(GHQ)側が出した新憲法草案が帝国議会にて可決されて」日本国憲法ができたというところ。言うまでもなくアメリカはイギリス法を採用している国であり、かつ、このイギリス法自体もアメリカで独自の発展を遂げてきました。こうした要素の一部が日本国憲法にも受け継がれているのです。かの有名な「違憲(立法)審査権」がその一例といえるでしょう。
このように、英米法を知ることは、巡り巡って日本の法律(の背景知識や構成)を知ることにも繋がっていくのです。

そして、「日本の法制度とは大きく違う法制度から、歴史や背景を学ぶこと」。
これに関しては英米法以外の法を学ぶ意義としても同じようなことがいえるでしょう。日本もそうですが、国家におけるルールたる「法」には、必ずその国や民族の文化的、歴史的背景が絡んでいます。他国の法律や法制度を学ぶということは、その「他国の法制度」を通じて異文化を知る営みでもあります。いわゆる「グローバル化」が進展しきったともいえるこの現代において、異文化を理解し、その手にしていく一つの手段を身につける。英米法を学ぶ意義はこうしたところにもあると考えています。


いかがでしたでしょうか?高校社会科相当の知識でも理解できるようできる限りわかりやすい文章を心がけましたが、どうしても「何言ってるかわかんない」となった場合は遠慮なくこのホームページ内のお問い合わせフォームからご連絡ください。
わからないものをわかるようにする、それだけで見える世界は大きく変わります。英米法研究会は、こうした英米法を制度、文化等様々な面から学ぶことのできるサークルです。この記事で少しでも興味をもってくれた皆さん、ぜひ部室やイベントにいらしてください。

では、閉廷。

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